佐々野寄の日記

数学、ソフトウェアまたはそのほか

恒等式の問題(3) 係数比較法の正しさ

問題再掲です。

 

以下の問題の解法をいろいろ考えてみようというやつの第3弾です。

 

問題

$$
x^3=a(x-1)^3+b(x-1)^2+c(x-1)+d
$$
が$x$に関する恒等式となるように定数$a,b,c,d$を求めよ。

 

さてさて、次の解法に行く前に、ちょっと立ち止まって、

係数比較法に関して考察してみます。

 

係数比較法は正しいのか?

 

係数比較法は正しいでしょうか?

つまり、

どんな数を代入しても正しい等式は係数がすべて一致する

という主張は正しいですか?

 

教科書は、ほとんど当たり前のように扱っています。

この記事を書くためにyoutubeとか見ましたけど、

この事実を証明しているものはありませんでした。

 

証明できますか?

 

 

まずは、示すべきことをはっきりと書いてみましょう。

 

定理1

$P(x)=\sum_{i=0}^m p_ix^i$, $Q(x)=\sum_{j=0}^n q_jx^j$とおくとき、 $P(x)=Q(x)$が恒等式(任意の実数について$P(x)=Q(x)$が成立する)ならば、$m=n$が成立して、任意の $i=0$,$1$, ,$m$ に対して $p_i=q_i$が成立する。

 


定理のように主張(証明すべき事)をちゃんと書けるということは、それだけでとても数学できるということになります。多分、高校生は書けないでしょう。普通の理系の大学生でも難しいかもしれません。

 

さて、もう少し簡単にならないだろうかと考えます。

$2$次式で考えてみましょう。

 

定理は以下のように書けます。

 

$$p_2x^2 + p_1x + p_0 = q_2x^2 + q_1x+q_0$$

が任意の$x$について成立するならば、$p_2=q_2, p_1=q_1, p_0=q_0$

が成立する。

 

変形してみましょう。

 

$$(p_2-q_2)x^2+(p_1-q_1)x+(p_0-q_0)=0$$

が任意の$x$について成立するならば、$p_2-q_2=p_1-q_1=p_0-q_0=0$

が成立する。

 

これは、以下と同じことを言っています。

 

$$a_2x^2 + a_1x+a_0=0$$

が任意の$x$について成立するならば$a_2=a_1=a_0=0$

が成立する。

 

 

今は、$2$次式でやりましたが、本質的に次数を使っていません。

上記の定理1は以下と同じです。

 

定理1(言い換え)

$S(x)=\sum_{i=0}^m a_ix^i$とおくとき、

$$S(x)=0$$が恒等式(任意の実数について$S(x)=0$が成立する)ならば、任意の $i=0$,$1$, ,$m$ に対して $a_i=0$が成立する。

 

だんだん、間延びしてきた感じがします。

一気に証明を書いてみましょうか。。

 

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係数比較法の証明1

 

最後のはVandermondeの行列式と呼ばれているものです。さぁ、あと一息。

 

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係数比較法の証明2

 

これで、証明が完了しました。

こんなに難しく考えないとできないのか?。。多分、ないと思います。

(あったら教えてください)

 

ということで、何を示せたかというと、

 

 

恒等式(任意の数を入れて正しい)と係数比較は同値

 

です。

結局のところ$0=0$という自明な式しか許さない

という事実を突きつけます。

 

 

ここから、式をものとして扱う概念の萌芽を

読み取ることができます。

 

高校のこの段階では、式は変数を代入してナンボの世界です。

ですが、この辺りから、多項式をモノとして扱いだします。

操作をモノとして扱う現代数学の考え方を潜ませているのです。

恒等式多項式環の等号の定義になる

ことが分かりました。