三角関数加法定理(3) 回転行列の方法
問題再掲です。
(1) 一般角$\theta$に対して$\sin\theta$, $\cos\theta$の定義を述べよ。
(2) (1)で述べた定義に基づき、一般角$\alpha$, $\beta$に対して
\begin{eqnarray}
\sin(\alpha + \beta) &&= \sin\alpha\cos\beta + \cos\alpha\sin\beta \\
\cos(\alpha + \beta) &&= \cos\alpha\cos\beta - \sin\alpha\cos\beta
\end{eqnarray}
を証明せよ。
確か、回転の行列を用いた方法は、当時の予備校業界の人たちは
ダメだと言ったと思う(記憶が正しければ)。なぜかというと、
循環論法になるじゃね?だそうだ。
どういうことかというと、
「回転の行列$R(\theta)$が
$
\begin{pmatrix}
\cos \theta && -\sin \theta \\
\sin \theta && \cos \theta
\end{pmatrix}
$
」
を示すときに加法定理を使っているじゃんか、
つまり、示すべきものを使って示しているから反則だという論法でだめらしい。
そうなのかなぁぁ。とりあえず、これを使って示してみよう。
$\beta$回転して$\alpha$回転するのと、いっぺんに$\alpha + \beta$回転するのは
同じ操作なので、
$$R(\alpha + \beta ) = R(\alpha )R(\beta )$$
これで本当にダメなんですかね?
ここで、他の人が言っていることを鵜吞みにせず踏み込んで考えてみませんか?
まずは示すべきことを明言しましょう。
こういう、問題は何かを言う、というのはとても重要なことです。
社会人になると、問題は何か言え、と何度も言われます。
問題が何かをはっきりさせずに解決策を話す人がいかに多いことか。
話しがそれました。以下が示すべきことです。
定理
$\theta$回転の移動を$R(\theta )$とする。このとき、$R(\theta )$は行列であって、
$$
\begin{pmatrix}
\cos \theta && -\sin \theta \\
\sin \theta && \cos \theta
\end{pmatrix}
$$
と表すことができる。
これを示しましょう。この定理を三角関数の加法定理を使わずに示すことができれ
ばそれで終了です。(回転の移動が行列であることも仮定していないことに注意)
まずは、$R(\theta )$が線形性を満たすことを示します。
回転して定数倍するのと、定数倍して回転するのは同じ。
平行四辺形をかいて回転するのと、回転して平行四辺形をかくのは同じ。
これを明らかでないと主張する人はいますか?
私は明らかとしてよい事実かと思います。
では、定理を示します。
どこかで三角関数の加法定理を使いましたか?
使いませんでしたね。
これを示すのに加法定理を使わないといけないと思っているひとにとっては
巧妙な方法となります。
しかし、上記の方法は、まったく突飛な証明ではなくて、
線形性から行列表示であることを示す、
それっぽく言うと、線形変換を基底を固定して行列として表示
という線形代数の根本に流れる由緒正しい証明法です。
私が採点する人であったなら、回転の行列で示す解答を誤答にする勇気がありません。