三角関数加法定理(2) 教科書的な証明
問題再掲です。
(1) 一般角$\theta$に対して$\sin\theta$, $\cos\theta$の定義を述べよ。
(2) (1)で述べた定義に基づき、一般角$\alpha$, $\beta$に対して
\begin{eqnarray}
\sin(\alpha + \beta) &&= \sin\alpha\cos\beta + \cos\alpha\sin\beta \\
\cos(\alpha + \beta) &&= \cos\alpha\cos\beta - \sin\alpha\cos\beta
\end{eqnarray}
を証明せよ。
今回は教科書に書いてあるような証明です。
まずは、(1)に対して解答を与えます。
高校の教科書のように、斜辺分のなんとか、から始めるのはちょっとやめて
以下のように単位円上の座標で定義を与えてみます。
教科書的な方法は、余弦定理と三角関数の性質を用いるものとなります。
まずは、$P(\cos\alpha, \sin\alpha), Q(\cos\beta, \sin\beta)$として
$\triangle OPQ$にの余弦定理を書くこと
$-\theta$のとき、$\frac{\pi}{2}$のときの性質を書いておけば完璧です。
$-\theta$のとき、$\frac{\pi}{2}$のときの性質は、受験生にとっては自明かもしれないので上記のように書けない人はたくさんいただろうし、書かなくても減点はされなかったかもしれません。
三角関数加法定理(1) 問題の定義
東大の入試問題で出た三角関数加法定理
1999年東大の入試問題で以下のようなものだが出題されました。
(1) 一般角$\theta$に対して$\sin\theta$, $\cos\theta$の定義を述べよ。
(2) (1)で述べた定義に基づき、一般角$\alpha$, $\beta$に対して
\begin{eqnarray}
\sin(\alpha + \beta) &&= \sin\alpha\cos\beta + \cos\alpha\sin\beta \\
\cos(\alpha + \beta) &&= \cos\alpha\cos\beta - \sin\alpha\cos\beta
\end{eqnarray}
を証明せよ。
なんとも誰もが教科書で見たことがある、何度も使ったことがある公式を示せ。
という問題です。
これが発表されたとき、みんながびっくりしました。
特に、予備校、塾の関係者は天を仰いだと言い伝えられています。
東大の入試問題と言えば、難しい問題が出ます。
実は誰も解けないというほどでもないんですがこれって
教科書の問題ですよね。
三角関数の加法定理は示すものではなく
使うもの、証明のやり方なんて高校でさえ習ってない、
授業聞いてない、さいこすこすさい、とか言ってればいいんだよ。。
。。。。
東大受ける人はそんなことないよね?
そういうことでしょうか?
教科書に載っているから簡単、と思いきや、受験生にとっては
まあまあ難しい問題だったらしいです。もし受験生だったらどういう解答
を書くだろう?とか、もっともカッコいい解答は何だろう?
といろいろつらつら考えていきます。
2の冪について
実はソフトウェアの世界で数学が役に立つことはほとんどありません。
数学が得意なことによって、抽象的言い回しに慣れているので
プログラムを書いたり読んだりが
あまり抵抗ないとかはあるでしょう。公理がプログラミングの規則に
変わっただけだ、と思う人もいます。でも、それは、「数学」が
役に立っているわけではないです。
上記の主張は、論理を基調とする学問ならすべて当てはまります。
物理学とか法律学とか哲学に置き換えても、通じる主張がほとんどです。
さて、数学が役になったこと、ダイレクトに数学を使ったと思ったことが
一度だけありました。私は当たり前だと思っていたことが、十年以上
ソフトウェアのプログラムをしていた同僚が驚いてくれました。
ソフトウェアの世界では2進法
さて、ソフトウェアの世界で、$2^{10}=1024$を1Kと呼称します。
$2$進法の海の中で生きるソフトウェアの世界では
$10$進法は使わないです。
たとえば、
「ある値の最大値を$500$にしようと思う」
とデザインレビューで発言したとします。
かなりの高確率で
「そんな中途半端な数字はやめて$512$にしろ」
と言われます。
$500$よりも$512=2^9$の方が切りのいい数字だということを
覚えておくことはソフトウェアの世界を生き抜くために必須のことです。
2の冪をすぐに変換できるか
さて、$2^{23}$と言われてそれがすぐに$8M$であることは
分かりますか?
$2^{34}$が$16G$とすぐに変換できますか?
件の同僚と話しているとき、何ら躊躇なくこの変換をやったところ
「暗算速いね」
とか言われました。
「いや暗算とかしてないよ?」
まずは基本
まず、$2^0$から$2^9$の値は覚えるでしょう。
ソフトウェアの世界でこの値を覚えていない人はいません。
覚えていなくても覚えたふりをしておきましょう。馬鹿にされます。
$2^9$までだったら頭の中で計算できますから、覚えているフリは楽です。
$256K=262144$とかまで覚えているひとがいる世界ですから。
$2^0=1$
$2^1=2$
$2^2=4$
$2^3=8$
$2^4=16$
$2^5=32$
$2^6=64$
$2^7=128$
$2^8=256$
$2^9=512$
KとかMとか
$2^{10}=1024$を1Kといいます。
K(キロ)、M(メガ)、G(ギガ)、T(テラ)
あたりまで覚えておけばいいでしょう。
$2^{10}$とK, M, G, Tの関係を理解しましょう。
10乗ごとに上がっていくことを心に刻むのです。
$2^{10}$がK、
$2^{20}=2^{10} * 2^{10}$は、最初の$2^{10}$をKと読んで、
2個あるからMになる。
$2^{30}=2^{10} * 2^{10} * 2^{10}$
とK, M, Gと読んで、3個あるからGになります。
2の冪の変換
これで、準備が整いました。
$2^{23}$と言われたら、
$2^{23}=2^{10} * 2^{10} * 2^{3}$
と変換します。
K, Mと数えて、$2^3=8$だから8Mとすぐに分かります。
$2^{32}=4G$とか、瞬間的に変換できるようになりましたね?
恒等式の問題(5) 割り算の解法
問題再掲です。
以下の問題の解法をいろいろ考えてみようというやつの第5弾です。
今日で最後の予定です。お付き合いくださってありがとうございます。
第1回で、簡単とした解法です。
問題
$$
x^3=a(x-1)^3+b(x-1)^2+c(x-1)+d
$$
が$x$に関する恒等式となるように定数$a,b,c,d$を求めよ。
今度は、剰余の定理をもっと深く考えていきましょう。
$P(x)=x^3$とおくとき、
$d$が$P(1)$であることは剰余の定理そのものです。
これを拡張することはできないかと考えてみましょう。
$$P(x)=(x-1)Q_1(x)+P(1)$$
です。$Q_1(x)$を$(x-1)$で割ることを考えます。
$$Q_1(x)=(x-1)Q_2(x)+Q_1(1)$$
これを最初の$P(x)=(x-1)Q_1(x)+P(1)$に代入すると、
$$P(x)=(x-1)^2Q_2(x)+Q_1(1)(x-1)+P(1)$$
となります。
ということで、$Q_3(x), Q_4(x)$も定義することによって、
$$P(x)=Q_4(1)(x-1)^3+Q_3(1)(x-1)^2+Q_2(1)(x-1)+P(1)$$
したがって、
- $P(1)$は$P(x)$を$(x-1)$で割った余りです
- $Q(1)$は$P(x)$を$(x-1)$で割った商を$(x-1)$で割った余りです。
これを繰り返すこと、つまり、$(x-1)$でどんどん割っていけば
答えが得られます。
組み立て除法を繰り返せば答えが得られる。
という謎がこれで解けました。
解法的にはこれが一番簡単でしょう。
いろいろな解法を通じて「数学」を学ぶことができました。
(1)(2)(3)で、どんな値を代入しても同じであることと
係数がすべて同じであることが同値であることを示しました。
これによって、式を「もの」と見る視点が育まれます。
(4)においては微分法の解答です。Taylor展開につながる考え方です。
そして、今回(5)によって、割り算の原理による解法です。
割り算することがほぼ同じであるので、とても自然です。
$1, x, x^2, x^3, ...$と$1, (x-1), (x-1)^2, (x-1)^3, ...$の
基底の変換(の一部)を与えるとみることができます。
実は、この恒等式の問題はとても豊かな数学の考え方がつまっていました。
楽しむことができましたか?
恒等式の問題(4) 微分法の解法
問題再掲です。
以下の問題の解法をいろいろ考えてみようというやつの第4弾です。
問題
$$
x^3=a(x-1)^3+b(x-1)^2+c(x-1)+d
$$
が$x$に関する恒等式となるように定数$a,b,c,d$を求めよ。
前回は、説明がうまくできたかどうか不安です。。。。
今日は微分法による解法を考えます。
$x=1$を代入すれば$d$が出る。じゃぁ、微分してまた$x=1$を入れれば
$c$が出る、というアイデアです。
これって何度も微分して$x=1$を代入しているだけです。
$f(1), f'(1), f''(1), f'''(1)$を求めているだけですね。
これはTaylor展開を思い出しませんか?
$x=1$のTaylor展開を書いてみましょう。
$$f(x)=f(1)+f'(1)(x-1)+\frac{f''(1)}{2!}(x-1)^2+\frac{f'''(1)}{3!}(x-1)^3+\cdots$$
が成立します。
これをダイレクトに使った解法もできます。
$f(x)=x^3$と置くんですが、$3$次より大きい項は$0$になるので
以下のように簡単です。
今回の解法はかなり簡単でした。
気にしないでください。
恒等式の問題(3) 係数比較法の正しさ
問題再掲です。
以下の問題の解法をいろいろ考えてみようというやつの第3弾です。
問題
$$
x^3=a(x-1)^3+b(x-1)^2+c(x-1)+d
$$
が$x$に関する恒等式となるように定数$a,b,c,d$を求めよ。
さてさて、次の解法に行く前に、ちょっと立ち止まって、
係数比較法に関して考察してみます。
係数比較法は正しいのか?
係数比較法は正しいでしょうか?
つまり、
どんな数を代入しても正しい等式は係数がすべて一致する
という主張は正しいですか?
教科書は、ほとんど当たり前のように扱っています。
この記事を書くためにyoutubeとか見ましたけど、
この事実を証明しているものはありませんでした。
証明できますか?
まずは、示すべきことをはっきりと書いてみましょう。
定理1
$P(x)=\sum_{i=0}^m p_ix^i$, $Q(x)=\sum_{j=0}^n q_jx^j$とおくとき、 $P(x)=Q(x)$が恒等式(任意の実数について$P(x)=Q(x)$が成立する)ならば、$m=n$が成立して、任意の $i=0$,$1$, ,$m$ に対して $p_i=q_i$が成立する。
定理のように主張(証明すべき事)をちゃんと書けるということは、それだけでとても数学できるということになります。多分、高校生は書けないでしょう。普通の理系の大学生でも難しいかもしれません。
さて、もう少し簡単にならないだろうかと考えます。
$2$次式で考えてみましょう。
定理は以下のように書けます。
$$p_2x^2 + p_1x + p_0 = q_2x^2 + q_1x+q_0$$
が任意の$x$について成立するならば、$p_2=q_2, p_1=q_1, p_0=q_0$
が成立する。
変形してみましょう。
$$(p_2-q_2)x^2+(p_1-q_1)x+(p_0-q_0)=0$$
が任意の$x$について成立するならば、$p_2-q_2=p_1-q_1=p_0-q_0=0$
が成立する。
これは、以下と同じことを言っています。
$$a_2x^2 + a_1x+a_0=0$$
が任意の$x$について成立するならば$a_2=a_1=a_0=0$
が成立する。
今は、$2$次式でやりましたが、本質的に次数を使っていません。
上記の定理1は以下と同じです。
定理1(言い換え)
$S(x)=\sum_{i=0}^m a_ix^i$とおくとき、
$$S(x)=0$$が恒等式(任意の実数について$S(x)=0$が成立する)ならば、任意の $i=0$,$1$, ,$m$ に対して $a_i=0$が成立する。
だんだん、間延びしてきた感じがします。
一気に証明を書いてみましょうか。。
最後のはVandermondeの行列式と呼ばれているものです。さぁ、あと一息。
これで、証明が完了しました。
こんなに難しく考えないとできないのか?。。多分、ないと思います。
(あったら教えてください)
ということで、何を示せたかというと、
恒等式(任意の数を入れて正しい)と係数比較は同値
です。
結局のところ$0=0$という自明な式しか許さない
という事実を突きつけます。
ここから、式をものとして扱う概念の萌芽を
読み取ることができます。
高校のこの段階では、式は変数を代入してナンボの世界です。
ですが、この辺りから、多項式をモノとして扱いだします。
操作をモノとして扱う現代数学の考え方を潜ませているのです。
ことが分かりました。
恒等式の問題(2) 係数比較法
問題再掲です。
以下の問題の解法をいろいろ考えてみようというやつの第2弾です。
問題
$$
x^3=a(x-1)^3+b(x-1)^2+c(x-1)+d
$$
が$x$に関する恒等式となるように定数$a,b,c,d$を求めよ。
1回目では、代入法をやりました。
次に紹介する方法は、
教科書に次に載っている方法、それは係数比較法と呼ばれているものです。
曰く、
恒等式においては、各係数が一致する
この主張は、
$x^3$の係数、$x^2$の係数、$x$の係数、定数がすべて一致する
です。
これを使って解いてみましょう。
右辺を展開して係数比較。そこから出てきた式で連立方程式を解いて答えを導きます。
解法2 係数比較法その1
若干ですが、代入法よりも解き方が易しかったかもしれないです。
余談ですが、
実は、係数比較法には次のようにやるともっと簡単になります。
$y=x-1$とおきます。つまり$x=y+1$を元の式に代入してみましょう。
そいて左辺を展開して係数比較です。
解法3 係数比較法その2
さて、おそらく、ここまでが教科書に書いてある方法です。
これ以上、何をやることあるかどうか、というところですが、
まぁ、ちょっと考えていきます。