12個のたまごと天秤の問題(1) 12個のときの解答
12個と天秤の問題、という有名なパズルがあります。
それでちょっと数学をしてみます。
まずは問題
問題
12個のたまごがあります。11個は同じ重さで1つだけ重さが違います。その1つは重いのか軽いのか分かりません。天秤を3回まで使って、この1つだけ重さの違うたまごをみつけてください。
いきなり解答を書いてみましょう。問題を出した途端にですか、と言う人はいらっしゃると思います。でも、この問題は、まず解答をみつけてからが、始まり、スタート地点に立つのです。ですから、すぐに解答を書きますよ。
12個の解答
1回目の天秤では、4個ずつ載せます。
釣り合った場合と釣り合わなかった場合の場合分けです。
1. 1回目で釣り合った場合
ここで分かったことは、8個は他のたまごと同じ重さで残り4個に重さの違うものがあるということです。
面倒なので、他のたまごと同じ重さのものを正常、そうでないものを異常の可能性のある、と言いましょう。
すると、1回目で釣り合ったときの状態は、8個の正常と4個の異常の可能性になります。
次に2回目なんですが、左に異常の可能性のある2個を載せて、右に異常の可能性のある1個と正常1個を載せます。
(1a)2回目でつりあった場合
天秤に載せなかった1個が異常です。
(1b)2回目で左に傾いた場合
左の2個が重い可能性、右の1個が軽い可能性です。3回目は重い可能性のあるたまごを1個ずつ右と左に置きます。
(1c)2回目で右に傾いた場合
(1b)と同じですが、左の2個が軽い可能性、右の1個が重い可能性です。3回目は軽い可能性のあるたまごを1個ずつ右と左に置きます。
2.1回目で釣り合わない場合
重い可能性のある4個、軽い可能性のある4個、正常4個になりました。
2回目は、右に重い可能性ある2個と軽い可能性のある1個、左に重い可能性のある2個と軽い可能性のある1個を載せます。
(2a)2回目で釣り合った場合
軽い可能性の2個が残っているので、3回目は右と左に軽い可能性のあるのを1個ずつ載せます。
(2b)2回目で傾いた場合
右に傾いても左に傾いても、重い可能性のある2個と軽い可能性のある1個が残ります。3回目は重い可能性のあるのを1個ずつ右と左に載せます。
解答を振り返る
さて、上の解答、読みましたか?なんて文章が長いんでしょうか。xxの可能性がある、て何度も書いているので分かりにくいったらありゃしません。
ということで、次回からは、その辺りを解きほぐしていく作業から書いていこうと思います。
ユニタリ表現入門
今年、年が明けてから、通勤時間を利用して、3か月くらいかけて読みました。
杉浦光夫先生のユニタリ表現入門です。私が読んだのは、上智大学数学講究録の
オレンジ色のノートみたいなものですが、内容は同じみたいです。
主に3部構成です。
0章-5章 表現論の基礎的なことと、コンパクト群トーラス、
SU(2), SO(3)の表現論です。
6章-11章 SU(1,1)の既約ユニタリ表現をmultiplierという概念から
統一的に構築しようという試みです。
この時点で「すごい、この本」となってました。
12章-17章 既約ユニタリ表現の分類です。
アイデアは、既約ユニタリ表現の分類は、行列係数というか球関数の分類
に帰着させるというもの。圧巻です。
予備知識としては、ほぼ1,2年生の微分積分と線形代数があればいい
と思います。ところどころ関数解析の知識が必要ですが、
知らなければいったんは保留して進みましょう。
すごいところ
なんとって言っても、杉浦先生の実際の功績を本にしてあることです。
0章-5章の導入もあまり他の本にない感じで始まりますし、とても
熱量が高い本だと言えます。
そして、本全体で繰り広げられる計算の嵐!!
普通の数学の本は、実際の計算は適当に省略したり
練習問題ぽくするのに、この本は細かい計算をとても丁寧に
書いてくれています。
私は電車の中でずっとこの計算をやってました。
いや、まだやり足りないくらいです。
この本の計算は、何度も何度もやると喜びが湧いてくるのです。
三角関数加法定理(7) 蛇足的考察
三角関数を定義して加法定理を証明する。
これは高校数学でありながら深淵な数学をのぞかせてくれました。
(2)の教科書的方法はさておき、それ以外の方法を考察してみましょう。
(3)回転行列の方法
複素数を使う方法でも同じですが、循環論法になりそうな感じです。
線形性を前面に出して、循環論法を避けた証明です。
ここから線形代数の抽象的な考え方、線形性とか基底とかの
考え方が垣間見えます。
(4)Eulerの公式 (5)微分方程式
この二つの方法は、かなりよく知られています。
実は、高校的な三角関数の定義は循環論法ではないか問題を抱えています。
問. 円周率を円周と直径の比で定義するとき円の面積は?
を答えることを考えましょう。どうやって解きますか?
ふつうは積分するでしょう。積分するには微分を考えないといけないです。
そうすると\lim_{h\to 0}\sin x / x$を求めないと、でもそのとき
円の面積を使うよね。あれ?
円の面積の公式を求めるために円の面積の公式を使っている
これが循環論法だというのです。
この議論を回避する一つの方法として、冪級数で三角関数を定義したり
ここからは、複素解析の世界が拓けます。
高木貞治先生が言う玲瓏なる境地が広がっています。
(6)関数方程式
ここから進むべき深淵な数学はありません。
でも、こういう定理を考えようとしたことが数学です。
加法定理①②に条件③④を加えなければなりませんが、
どういう条件なら成り立つか、
もっと弱い条件では?もっと強いイケてる条件は?
を考えた結果がこの③④なのです。
これこそが数学の定理だと思いませんか?
少しでも面白そうだと思ってもらえると幸甚です。
三角関数加法定理(6) 関数方程式
問題再掲です。
(1) 一般角$\theta$に対して$\sin\theta$, $\cos\theta$の定義を述べよ。
(2) (1)で述べた定義に基づき、一般角$\alpha$, $\beta$に対して
\begin{eqnarray}
\sin(\alpha + \beta) &&= \sin\alpha\cos\beta + \cos\alpha\sin\beta \\
\cos(\alpha + \beta) &&= \cos\alpha\cos\beta - \sin\alpha\cos\beta
\end{eqnarray}
を証明せよ。
三角関数の加法定理の証明です。
前々回、前回で冪級数、微分方程式による三角関数の定義を行いました。
もう単位円とかきれいに忘れた格好です。
では、最後にとっておきの方法です。
この方法は誰も思いつかないでしょう。
加法定理そのものを満たす関数を$\cos x, \sin x$と定義します。
①②をみたす関数を定義とするわけなので(2)は明らかです。
なんか定義して示せ、と言われているのに、
示すべきものを満たすものっていう定義にするとか、
なんという狂気な解答!すごいでしょ!?
①②だけでは一意性は言えないので、③④を付け加えています。
アイデアは①②③④から前回の微分方程式と初期値をみたすことを言って
微分方程式の解の存在と一意性に帰着するというものです。
③④は、私が考えた条件ですが、、、、
もっとイケてる条件があったら教えてください。
(自分的には不満です)
証明のアイデアは
- 初期値をみたすこと $c(0)=1, s(0)=0$
- 微分方程式を満たすこと
を示していくということです。
微分方程式を満たすこと、つまり
微分係数を求めないといけません。
高校の教科書を思い出してみましょう。このために④は不可欠です。
あと、差積の公式を出す必要があります。そのためには、
$x-y$の式を出さないといけません、、
このために考えた条件が③です。
③はピュタゴラスの定理なので不自然ではありませんが、
なんだかイケてないと感じてしまいます。。
何はともあれ、アイデアは以上の通り。
証明は長いですが、難しいところはありません。
初期値
よくある関数方程式から初期値を求める感じで。
$-x$の公式
加法定理の差の公式
差積の公式
微分
以上で、微分方程式の初期値問題の解の存在と一意性から
①②③④をみたす$c(x), s(x)$は存在し一意です。
三角関数加法定理(5) 微分方程式
問題再掲です。
(1) 一般角$\theta$に対して$\sin\theta$, $\cos\theta$の定義を述べよ。
(2) (1)で述べた定義に基づき、一般角$\alpha$, $\beta$に対して
\begin{eqnarray}
\sin(\alpha + \beta) &&= \sin\alpha\cos\beta + \cos\alpha\sin\beta \\
\cos(\alpha + \beta) &&= \cos\alpha\cos\beta - \sin\alpha\cos\beta
\end{eqnarray}
を証明せよ。
三角関数の加法定理の証明です。
次は微分方程式による定義です。
定数係数の線形常微分方程式の解は存在して一意であることを
利用して以下のような定義を行います。
定義
もう三角関数の定義がどこから始まっても驚きませんよね?
ここからTaylor展開を求めにいって、前回の結果に帰着してもいいけれども
せっかくなので、微分方程式の解の存在と一意性を存分に使いましょう。
アイデアは、二つの関数が同じ微分方程式と初期値をみたすから同じ、
という論法です。
2つの関数を考える
あとは、$A(x), B(x)$が同じ初期値をもって、
同じ微分方程式をみたすことを示すことです。
同じ初期値、同じ微分方程式を満たす
これで、証明完成です。
三角関数加法定理(4) Eulerの公式を使う
問題再掲です。
(1) 一般角$\theta$に対して$\sin\theta$, $\cos\theta$の定義を述べよ。
(2) (1)で述べた定義に基づき、一般角$\alpha$, $\beta$に対して
\begin{eqnarray}
\sin(\alpha + \beta) &&= \sin\alpha\cos\beta + \cos\alpha\sin\beta \\
\cos(\alpha + \beta) &&= \cos\alpha\cos\beta - \sin\alpha\cos\beta
\end{eqnarray}
を証明せよ。
三角関数の加法定理の証明です。
ここからは高校数学を逸脱します。でも、この辺りから楽しいです。
Euler(オイラー)の公式と指数法則を使うとすぐに証明できます。
Eulerの公式
$$e^{iz} = \cos z + i\sin z$$
指数法則
$$e^z e^w = e^{z+w}$$
Enlerの公式と指数法則を用いた証明
まずは、加法定理を示すところからやってみます。
定義を変える 冪級数による三角関数の定義
さて、Eulerの公式と指数法則を証明しないと、という気になります。
(1)の解答、単位円周上の点の座標としたことを思い出しましょう。
単位円周上の点の座標を三角関数の定義からこれらを示すことって
できるんでしたっけ?
ここで、三角関数の定義を元の「円周上の点の座標」から
「ある冪級数」として定義します。
もともと三角関数は「斜辺分のなんとか」で定義していました。
(三角比と呼ばれていたやつです)
「斜辺分のなんとか」のときは、$0$から$\frac{\pi}{2}$までの範囲
までしか定義できませんでした。
そして$0$から$\frac{\pi}{2}$のとき、単位円の円周上
の座標が$(\cos\theta, \sin\theta)$であることを利用して、全実数に広げました。
定義 ⇒ 性質1
となったとき、性質1を定義にしてしまおう、ということです。
数学ではこのようなことをよくやります。
「特徴づけ」characterization, justificationと言ったりして
ある定義を特徴づける定理というのは文句なしに良い定理になります。
「斜辺分のなんとか」
⇒「単位円上の点の座標」
⇒「ある冪級数」
に定義を拡大させることができました。
ここから、Eulerの公式と指数法則を示すことができます。
Eulerの公式の証明
指数法則の証明
これで証明が完了します。
入試問題でこの解答を書ける人はそういないと思いますが、
・級数による定義
・Eulerの公式、指数法則の証明
・加法定理の証明
と書けば完全正解です。
三角関数加法定理(3) 回転行列の方法
問題再掲です。
(1) 一般角$\theta$に対して$\sin\theta$, $\cos\theta$の定義を述べよ。
(2) (1)で述べた定義に基づき、一般角$\alpha$, $\beta$に対して
\begin{eqnarray}
\sin(\alpha + \beta) &&= \sin\alpha\cos\beta + \cos\alpha\sin\beta \\
\cos(\alpha + \beta) &&= \cos\alpha\cos\beta - \sin\alpha\cos\beta
\end{eqnarray}
を証明せよ。
確か、回転の行列を用いた方法は、当時の予備校業界の人たちは
ダメだと言ったと思う(記憶が正しければ)。なぜかというと、
循環論法になるじゃね?だそうだ。
どういうことかというと、
「回転の行列$R(\theta)$が
$
\begin{pmatrix}
\cos \theta && -\sin \theta \\
\sin \theta && \cos \theta
\end{pmatrix}
$
」
を示すときに加法定理を使っているじゃんか、
つまり、示すべきものを使って示しているから反則だという論法でだめらしい。
そうなのかなぁぁ。とりあえず、これを使って示してみよう。
$\beta$回転して$\alpha$回転するのと、いっぺんに$\alpha + \beta$回転するのは
同じ操作なので、
$$R(\alpha + \beta ) = R(\alpha )R(\beta )$$
これで本当にダメなんですかね?
ここで、他の人が言っていることを鵜吞みにせず踏み込んで考えてみませんか?
まずは示すべきことを明言しましょう。
こういう、問題は何かを言う、というのはとても重要なことです。
社会人になると、問題は何か言え、と何度も言われます。
問題が何かをはっきりさせずに解決策を話す人がいかに多いことか。
話しがそれました。以下が示すべきことです。
定理
$\theta$回転の移動を$R(\theta )$とする。このとき、$R(\theta )$は行列であって、
$$
\begin{pmatrix}
\cos \theta && -\sin \theta \\
\sin \theta && \cos \theta
\end{pmatrix}
$$
と表すことができる。
これを示しましょう。この定理を三角関数の加法定理を使わずに示すことができれ
ばそれで終了です。(回転の移動が行列であることも仮定していないことに注意)
まずは、$R(\theta )$が線形性を満たすことを示します。
回転して定数倍するのと、定数倍して回転するのは同じ。
平行四辺形をかいて回転するのと、回転して平行四辺形をかくのは同じ。
これを明らかでないと主張する人はいますか?
私は明らかとしてよい事実かと思います。
では、定理を示します。
どこかで三角関数の加法定理を使いましたか?
使いませんでしたね。
これを示すのに加法定理を使わないといけないと思っているひとにとっては
巧妙な方法となります。
しかし、上記の方法は、まったく突飛な証明ではなくて、
線形性から行列表示であることを示す、
それっぽく言うと、線形変換を基底を固定して行列として表示
という線形代数の根本に流れる由緒正しい証明法です。
私が採点する人であったなら、回転の行列で示す解答を誤答にする勇気がありません。